高い城の男 原作 あらすじ ネタバレ Amazon配信ドラマとどこが違うのか

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小説「高い城の男(原題:The Man in the High Castle)」は、米SF作家フィリップ・K・ディックによって発表されたSF小説です。第二次世界大戦では連合国が敗北し、アメリカ合衆国がドイツと日本によって分割統治されている世界が描かれます。1962年に発表され、1963年のヒューゴー賞 長編小説部門を受賞しました。

2015年にAmazonビデオによってドラマ化され、2019年にシーズン4で完結しました。ドラマを見て原作に興味を抱いたので読んでみました。原作のあらすじやドラマとの違いなどを紹介します。

あらすじ

第二次世界大戦は枢軸国の勝利に終わり、アメリカ合衆国は戦勝国であるドイツと日本によって分割統治されています。

そして1962年、アメリカでは「高い城の男」によって執筆された「イナゴ身重く横たわる」という小説がベストセラーとなっており、そこには連合国が第二次世界大戦に勝利した歴史が描かれていました。

ストーリーは、4人の人物を中心に進みます。

サンフランシスコの工場に勤めるフランク・フリンクは職場を解雇されますが、友人のエド・マッカーシーと協力して退職金を手に入れます。

美術品店を営むロバート・チルダンは、日本軍の春沢提督の使者と名乗る男から店の商品が贋作であることを知らされます。しかしその後、春沢提督という人物は存在しないことがわかります。
その後、太平洋岸連邦の田上通商代表に品物を届けるため、田上がいる通商代表部に向かいます。

ドイツでは首相が亡くなり、次期政権の行方が世界的に注目されていました。そんな中、日本軍の手崎将軍と実業家バイネスが会見することになり、太平洋岸連邦の田上通商代表はバイネスの素性を探るように命じられます。

夫フランクと別居中のジュリアナは、配送トラックの護衛として雇われていたジョー・チナデーラと出会い、彼が持っていた小説「イナゴ身重く横たわる」に興味を抱きます。そして、「高い城の男」と呼ばれる作者に会うためジョーと共に旅に出ます。

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ネタバレ

フランクとエドは退職金で工房を起業し、オリジナルの装飾品を作ることに自分たちの未来を見つけます。

店の商品を贋作と見抜いた男はフランクでした。そしてフランクとエドの工房と取り引きすることになったチルダンは、彼らが作った装飾品に、骨董品とは違う、今までにない独創性、芸術性を感じ、アメリカの新しい未来の到来を感じます。

日本の手崎将軍とバイネスの会談が行われると、バイネスは自分がドイツ国防軍情報部のヴェゲナー大尉であることを明かし、ドイツが日本との戦争を計画していることを明かします。そして計画に反対するハイドリヒへの協力を要請します。手崎将軍は対応を協議するため日本に帰国し、任務を果たしたヴェゲナー大尉もドイツに帰国します。

その後田上は、アメリカが第二次世界大戦に勝利した世界を体験します。

一方、ジョーと共に「高い城の男」の元へ向かっていたジュリアナは、ジョーの正体が「高い城の男」を暗殺するために派遣されたナチスの工作員と知って彼を殺します。そして単身「高い城の男」ことホーソーン・アベンゼンの元にやってくると、どうやって「イナゴ身重く横たわる」を執筆したのかをアベンゼンに尋ねます。アベンゼンは、自分の想像ではなく易経の結果にまかせるままに書いたと告白します。ジュリアナは、易経がアベンゼンに書かせた理由を易経に問いかけます。答えは「中孚(ちゅうふ)」。「真実」の意味でした。ジュリアナは、自分たちの存在する世界こそが実は小説(「高い城の男」)で描かれる架空の世界であり、小説に書かれている世界の方が本物の、現実の世界であると知ります。

感想

本書はジャンル的にはSF小説になるみたいです。しかしロボットとか宇宙戦艦とか空飛ぶ自動車、宇宙人なんかは出てきません。サイエンスっぽさは薄いと思います。
歴史改変小説というのでしょうか。もし三国志で蜀が勝っていたら、明智光秀が生きていたらといったようなやつです。

さて、フィリップ・K・ディックの作品では「真実とは何か」というテーマがよく語られます。本作でも根幹にあるのは、真実への問いかけでした。

偽名を使い、素性を偽る政府高官やドイツの工作員。本物と区別が付かない贋作。ラストでは、ジュリアナが生きている世界は偽物、小説の世界であり、小説「イナゴ身重く横たわる」に出てくる世界こそが本物と明かされました。
本書を読んでいる読者の世界があって、小説の中にジュリアナたちの世界がある。そんなメタフィクションっぽい作り。戦争でアメリカが敗北した世界に住むジュリアナは、小説でアメリカが勝利する世界を体験する。戦争で日本やドイツが敗北した世界に住む本書の読者は、本書で日本やドイツが勝利する世界を体験する。不思議な感覚。

いや、そもそも私の生きているこの世界が誰かの書いた小説の世界であることを否定することはできるのでしょうか。

小説の中の時代は1962年、本書が発表された年です。発表された当時、メタ感はなおさらだったことでしょう。

そういやかつて自分の生きている世界が誰かの見ている夢の世界だとしたら。そんなアニメ映画があったのを思い出しました。

そして本書の特徴のひとつとして、登場人物たちの易経への傾倒ぶりを挙げることができます。時代劇なんかでときどき出てくる、細い竹の棒でジャラジャラやるアレです。
田上、ジュリアナ、フランク、チルダン、みんな易経に夢中です。会社を首になったから易経、相手の正体がわからないから易経、人を殺してしまったから易経。というのも作者フィリップ・K・ディックがかなりの易経マニアだったようです。あとがきによれば、登場人物たちの行動を実際に易経で決めた部分もあったようです。
ちょっと引く、というより興味を抱いてしまいました。コインやサイコロを使って行うこともできるとか。おもしろそう。

主な登場人物

ジュリアナ・フリンク
フランクの別居中の妻。ロッキー山脈連邦のコロラド州キャノン・シティでジョーと知り合い、彼が持っていた小説「イナゴ身重く横たわる」に夢中になり、ジョーと共に作者「高い城の男」を訪ねる旅に出ます。

ドラマではフランクの恋人ジュリアナ・クレインとして登場。妹から謎のフィルムを預かったことでレジスタンス活動に関わっていきます。

原作もドラマも結構ひどい人。

ジョー・チナデーラ
配送トラックの護衛としてロッキー山脈連邦を訪れた際にジュリアナと知り合い、ホーソーン・アベンゼンを訪ねます。正体はドイツの工作員で、アベンゼンの暗殺を謀ります。

ドラマではジョー・ブレイクの名前で登場。ドイツの工作員としてレジスタンスに潜入捜査し、ジュリアナと知り合います。通商次官として日本政府に接触する際、「ジョセフ・チナデーラ」の偽名を使いました。

フランク・フリンク
太平洋岸連邦のサンフランシスコに住む工芸職人。職場を解雇されますが、友人のエドと共に「エドフランク宝飾工房」を起業します。妻ジュリアナとは別居状態。

ドラマではジュリアナの恋人として登場。妹とその子どもを日本の憲兵隊に処刑されたため日本を恨み、サンフランシスコへやってきた皇太子の暗殺を謀ります。計画は失敗しますが憲兵隊に追われることになり、レジスタンスに参加します。

エド・マッカーシー
フランクの友人。フランクとともに工房を起こします。

ドラマでもフランクの友人として登場。フランクがレジスタンスに加わったことで自らも関わっていきます。ドラマではなぜかゲイ。

ロバート・チルダン
太平洋岸連邦のサンフランシスコで古美術商を営む男性。日本人相手に美術品を販売する一方で、敗戦国民として日本人に対して卑屈です。

ドラマではフランクに銃の弾丸を売ったことで彼らに関わっていきます。

ポール・梶浦
太平洋岸連邦の職員。チルダンの常連客。

田上信輔
太平洋岸連邦の第一通商代表団代表。日本政府からバイネスの素性を探ることを命令されています。

ドラマでは日独戦争を回避するために奔走。別世界へ移動できる能力を身に付けます。

手崎将軍
元日本軍参謀総長。バイネスと面会するため、「矢田部信次郎」の偽名を使ってサンフランシスコを訪れます。

ルドルフ・ヴェゲナー
ドイツ国防軍情報部の大尉。手崎将軍と面会するため、「バイネス」の偽名を使ってサンフランシスコを訪れます。

ドラマでは、田上大臣と協力して日独戦争を回避しようとします。

フーゴー・ライス
サンフランシスコ駐在のドイツ帝国領事。

ブルーノ・クロイツ・フォン・メーレ
サンフランシスコ駐在の地方長官。

アレックス・ロッツェ
サンフランシスコ行きのロケットでバイネスの隣席になったドイツ人芸術家。

ホーソーン・アベンゼン
「イナゴ身重く横たわる」の作者。通称「高い城の男」。元アメリカ海兵隊軍曹。「イナゴ身重く横たわる」はナチスによって発禁本となっています。身の安全を守るため、高い壁と鉄条網で守られた城に住んでいると噂されているため「高い城の男」と呼ばれています。

ドラマでは、フィルム「イナゴ身重く横たわる」を研究するレジスタンスの中心的人物として登場します。ナチスや憲兵隊から身を隠すため隠れ家を次々に変えています。高い城に住んでいないので、なぜそう呼ばれるのかわかりませんでした。

用語

イナゴ身重く横たわる
「高い城の男」ホーソーン・アベンゼンが執筆する小説。タイトルは聖書からの引用だそうですが意味はよくわかりません。

「彼らはまた高いものを恐れる。恐ろしいものが道にあり、あめんどうは花咲き、いなごはその身をひきずり歩き、その欲望は衰え、人が永遠の家に行こうとするので、泣く人が、ちまたを歩きまわる。」(旧約聖書「コヘレトの言葉」12章第5節)

アメリカ合衆国
合衆国の名前は残っていますが、ナチス・ドイツの傀儡国家としてアメリカ東海岸を統治しています。

アメリカ太平洋岸連邦
大日本帝国の傀儡国家としてアメリカ西海岸とアラスカを統治しています。

ピノック(拝日派)
アメリカ太平洋岸連邦のに仕える白人の蔑称。

ロッキー山脈連邦
アメリカ合衆国とアメリカ太平洋岸連邦の間に位置する中立国家。

国防軍
ドイツ軍のこと

SS
ドイツ親衛隊のこと。元はヒトラーを護衛する党内組織ですが、保安警察や秩序警察、親衛隊情報部、強制収容所などを傘下に収めます。

SD
SS内部の情報部のこと。親衛隊情報部または親衛隊保安部。

ゲシュタポ
ドイツの秘密警察

ドラマとの主な違い

第二次世界大戦で枢軸国が勝利するという設定、登場人物が一部同じですが、ストーリーはまったく違うといってもいいと思います。

「イナゴ身重く横たわる」は映像ではなく小説です。

レジスタンスも憲兵隊もヤクザも登場しません。ジョン・スミスや木戸警部、ジュリアナの妹トルーディは登場しません。皇太子暗殺未遂事件なども起こりません。トーマス、誰それ状態です。

ナチスによる「イヤー・ゼロ計画」や「ニーベンヴェルト計画」は起きません。

別世界は触れられますが、終盤に田上が垣間見る程度で、行き来することはありません。「時の旅人」は出てきません。そもそも歴史が異なる別世界(パラレルワールド)というより、小説と外の世界といった違いかと思います。

ドイツの科学技術は進展し、火星や金星に到達しています。ヨーロッパと北米をロケットで行き来します。でもテレビや電話はそれほど発達していません。


ドラマはナチス、レジスタンス、ヤクザ、憲兵隊が抗争しており、銃撃戦を入れたり自由の女神像を壊してみたり派手にしていました。娯楽性を高めたのだと思いますが、うまくまとまらないまま終わってしまった感もあります。

ドラマは家族や人種差別、国家のあり方などを提示しながら別世界との関係が描かれました。原作は、自分たちの世界が誰かの作った小説の世界だとしたら、という虚構と現実の関係を描いています。

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シーズン2
シーズン3
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